これまで読んだ本の感想はメモがてらSNSに投げていたが、3つくらいのSNSを渡り歩いた結果感想文が分散してしまい、探しにくくなったのでここにまとめる。
- 乾淑子著『着物になった〈戦争〉 時代が求めた戦争柄』
- Warwick Louth著『THE ARTE MILITAIRE The Application of 17th Century Manuals to Conflict Archaeology』
- Rachel Midura著『Postal Intelligence』
- 野上元著『私たちの戦争社会学入門』
- Frédéric Chauviré著『THE NEW KNIGHTS The Development of Cavalry in Western Europe, 1562–1700』
- 旗代太田著『【抜粋翻訳】イタリア戦争の戦争術 1494-1529 第5章〜第8章』
- Nina Lamal著『Publishing Military Books in the Low Countries and in Italy in the Early Seventeenth Century』
- Lucian Staino-Daniels著『A Brief Introduction to Seventeenth-Century Military Manuscripts and Military Literacy』
- Sander Govaerts著『Horse Archery in Medieval Northwestern Europe. 400-1500: A Study of a Forgotten Military Tradition.』
- 平田昌司著「『孫子』の読書史」
- Silvia Mostaccio編『Ambrogio Spinola between Genoa, Flanders, and Spain』
- Scott Boston著『Toward a Protected Future Force』
- 渡辺信吾著『中世ヨーロッパの軍隊と戦術』
- Álvaro Soler del Campo著『La producción de armas personales (1500-1700) 』
- Keith Dowen著『THE SEVENTEENTH CENTURY BUFF-COAT』
- 清水有子著『近世日本の形成とキリシタン』
- アントゥリオ・エチェヴァリア著『Military Strategy: A Very Short Introduction』
- Faith S Harden著『Arms and Letters』
- Alberto Raúl Esteban Ribas著『THE BATTLE OF NORDLINGEN 1634』
- John K. Thornton著『The Art of War in Angola, 1575-1680』
- Treva J. Tucker著『Eminence over Efficacy: Social Status and Cavalry Service in Sixteenth-Century France』
- Olli Bäckström著『Military Revolution and the Thirty Years War 1618–1648: Aspects of Institutional Change and Decline』
- サビーネ・フリューシュトゥック著『「戦争ごっこ」の近現代史』
- 林田敏子著『軍事作戦とフェミニニティ』
- Hélder Carvalhal著『THE FIRST WORLD EMPIRE Portugal, War and Military Revolution』
- Tomoaki Shinoda著『Development of a standing army in 15th- and 16th-century al-Maghrib al-Aqṣā』
- CHARLES H. CARTER著『BELGIAN "AUTONOMY" UNDER THE ARCHDUKES, 1598-1621』
- 兵勢社『征論』
- Paul James Stewart著『THE ARMY OF THE CATHOLIC KINGS:SPANISH MILITARY ORGANIZATION AND ADMINISTRATION IN THE REIGN OF FERDINAND AND ISABELLA, 1474-1516.』
- Gregory Hanlon著『Italy 1636: Cemetery of Armies』
- 藤田達生著『戦国日本の軍事革命』
- Paul Sutton著『The Anglo-Spanish War 1655-1660』
- Pierre A. Picouet著『The Franco-Spanish war: the Sieges of Lleida from 1644 to 1647』
- ジェイソン・C. シャーマン著『弱者の帝国』
- I.A.A Thompson 著『Money, Money, and Yet More Money!』
- 白幡俊輔著『軍事技術者のイタリアルネサンス』
- 旗代太田著『Pike and Shotの時代: 歩兵の基礎』
- Henry Kamen著『Alba: Statesman and Diplomat』
- Thomas Arnold著『Renaissance at War』
- José Antonio Pérez Gimena著『DE GRANADA A PAVÍA. LA EVOLUCIÓN DEL EJÉRCITO ESPAÑOL DESDE 1482 A 1525』
- Terence Christian著『An Analysis of the European Fire Lance for Munitions Staging, Range and Lethality: A brief summary』
- Andre Schurger著『Theoretical calibre specifications of hackbuts and matchlock muskets in 16th and 17th century military handbooks』
- André Schürger著『The archaeology of the Battle of Lützen: an examination of 17th century military material culture.』
- 終わり
乾淑子著『着物になった〈戦争〉 時代が求めた戦争柄』
明治から昭和にかけて、軍人や兵器など戦争に関する図柄を用いた着物に関する本。現代から見ると引くような柄の着物が大量に出てくる。
個人的に1番印象に残ったのが国債が柄として使われている乳幼児向け襦袢で、武運長久を祈り武具を飾る価値観の延長として、同様に兵器とみなされていた国債が男児向けの吉祥絵柄として利用された、と著者は推測している。
時代精神の一端みたいな問題が伺えるなかなかすごい本だった
本の中に出てくる多くの着物は著者が所蔵しているものだそうでそういう点でもすごい
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3m444f5errk2a
Warwick Louth著『THE ARTE MILITAIRE The Application of 17th Century Manuals to Conflict Archaeology』
タイトル通り、紛争考古学研究に17世紀の軍事マニュアルを使った分析を持ち込めないかという話。どのように持ち込むかという方法論的な話だと解釈した。
ネイズビーの戦い等の戦場調査を通して方法を示していく感じだが、地図や図表が少なめでイングランド内戦での個々の戦いの知識をめちゃくちゃ要求される感じがあり、正直あまり理解できてない。
ただし攻城戦における分析はかなり興味深かった。著者によると着弾跡をマッピングできればそこから90度の扇形の範囲内に攻囲側の火点が存在することを想定でき、攻囲側の設備と包囲される都市との関連性を調査できる可能性があるらしい
日本の城でも同じようなことできないかなと思った
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lxaawiay4s2v
Rachel Midura著『Postal Intelligence』
想像以上にスパイ・諜報・検閲の分量が多い。
前半はほぼ郵便局を拠点として行われた諜報と防諜、暗号とその復号、陰謀とスパイ狩り、他国の郵便局との対決の話で占められてる。
後半は郵便制度が商業化していく過程を追っていくが、旅行知識というソフト面にも焦点が当てられており興味深い。あとここでも人が火炙りになったりしている。
諜報・防諜組織の商業化、という流れが整然としていて理解しやすい上に近世ヨーロッパの諜報活動の資料としても使えそうで邦訳されたらいろんな影響与えそうな本だった
スペインの兌換式暗号を破る話とか手紙を無断で開封したことがバレないように水銀を使う手法とか読めるが良すぎる。
日本の近代郵便制度における検閲体制とかも知りたくなってくる
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lq3gm4scf22e
野上元著『私たちの戦争社会学入門』
大学の一般教養講義のような体裁をとった入門書という感じ。
本書の目的は現代の軍隊と社会について読者に考えさせることにあるようで、軍隊と戦争に関する歴史的な解説は映画の描写を例にあげたりと割とおざなりな印象を受ける
マーシャルに関してはなぜか伝聞形で両論併記されるし、機関銃の社会史の扱いも慎重になった方がいいのではと感じた
本書の前半部、冷戦以前の記述はかなり眉唾感があり、特にフィクションである映画を参考にしていくのは入門書とはいえかなり問題なんではと思った
逆に後半部、冷戦期以降の軍隊の課題と実情は良く見える(単に自分に知識がないからかもしれない)
著者の唱える軍隊と社会の再帰性には納得感が強い
核兵器の記号消費論とかには異論ありそうだが、RMAの流行って軍人による記号消費と言えるんじゃないかという気がした。
総じて本書の目的のためにより重要なのは後半部で、そこをもっとボリューム持たせた方が良かったんじゃないか、という感想
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3llisza4w3s2j
Frédéric Chauviré著『THE NEW KNIGHTS The Development of Cavalry in Western Europe, 1562–1700』
悪いところと良いところが明確な内容だった。
まず著者が主にフランス語と英語の史料と先行研究に依拠しているのが明確な欠点になってる。MelzoやBastaといったスペイン・イタリア系の軍人の著書も引用されてはいるが、精読されて無さそう。
グスタフアドルフの神話化にハマっていそうな雰囲気もあり、正直30年戦争周辺の記述はあまり当てにならないなと感じた
30年戦争以降の記述はフランス語圏の内容しか出てこなくなるが、却って著者の知識と噛み合うようになりグッと良くなった印象がある(単に自分の知識が足りなくて変なところに気付けないだけかもしれない)
騎兵の火力と速度と機動の関係とその史的な展開もよく整理されてて良いと思った。
隊列を保ったまま速歩で接近してピストルで射撃し回頭する、というカラコール的な戦術が17世紀後半以降も利用されてたというのは知らなかった。
突撃の様相を騎兵個人の視点から叙述していく箇所も好き。
問題はいろいろある気がするが、全体的に読んでよかった、勉強になったと思える本だった
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旗代太田著『【抜粋翻訳】イタリア戦争の戦争術 1494-1529 第5章〜第8章』
フレデリック・ルイス・テイラーによる著作の私訳で、邦語で読めるほぼ唯一のイタリア戦争軍事史本の最終巻。
相変わらず訳注の充実っぷりがすごく、出版社とかが目をつけて出版してほしさがある。
最後のルネサンス期の古典復興の影響について、テイラーは理論的な影響に留まるとしている点、16世紀の軍事書に古代との共通点だけでなく相違点を挙げるものが存在しており、古代に対する理想化が強くないことを考えると同意できるなと。
ルネサンス期のイベリア半島はイベリアナショナリズムからくる反古代ローマ感情が存在していたが、軍事分野ではそれがあまり見られないという指摘があり、当時の軍事書に古代の理想化があまり見受けられない点をどう考えるか迷っていたのでテイラーの指摘は有益だった。
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Nina Lamal著『Publishing Military Books in the Low Countries and in Italy in the Early Seventeenth Century』
17世紀初頭の軍事書の出版について、読者層や著者ではなく、出版者とその販売戦略に着目したエッセイ。
あんまり意識したことなかったが、アントワープやブリュッセルでイタリア語やスペイン語の軍事本が出版されるという状況ってスペインやイタリアの軍隊が駐留しているという前提がないと起こり得ないものなんだなということによんでて気づいた。
このエッセイだと評判のいい本=売れ筋は何度も再販が繰り返されていて、違う出版者が出すこともあれば挿絵が追加されたりもしており、著者の許可とか利益還元とか無さそうに見える。著作権法のない時代恐ろしい。
どういう本がどれくらい再販されたのか、というデータベースがあれば評価の変遷とか追いやすそうなので誰か作ってくれないものか。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lgnqkkifok22
Lucian Staino-Daniels著『A Brief Introduction to Seventeenth-Century Military Manuscripts and Military Literacy』
30年戦争中のザクセン公国軍の兵員簿や給与受け取り記録のような軍隊の事務文書と兵士の識字能力についての小論文。
事務文書については文書記録そのものではなく、文書に使われている用紙や字体、様式についての話が載っており、歩兵と騎兵で記録の様式がかなり異なっていて文化の違いを感じさせるのが面白い。
ザクセン公国軍の場合、歩兵の方がより厳格な様式と字体だったらしく、途中で出てくる比較画像が面白い。
識字率について、著者はある騎兵一個中隊の給与受け取り記録に記された兵士自身の署名から80%程度の識字率があったと推定しているが、当時の軍隊では伍長レベルでもある程度の数学能力やメモを使った指令の伝達が想定されていたことを考えるとあながり間違いではない気がする。
もっと大規模に調べたらかなり面白そう
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lesjfynyxc2r
Sander Govaerts著『Horse Archery in Medieval Northwestern Europe. 400-1500: A Study of a Forgotten Military Tradition.』
Journal of Medieval Military Historyに掲載された論文だが読んだのは著者がacademia.eduで公開してる最終ドラフト版。
タイトル通りイングランドや低地地方、フランスなど北西ヨーロッパにおいて従来は否定されていた馬上から弓射を行う弓騎兵が後古典期以降から継続的に存在していたとする内容。
著者の考えでは鷹狩りなどと共に上流階級における狩猟法として東方からもたらされた馬上弓射は、中世を通して少数ながら一部の厳しい訓練を積んだエリート貴族や狩人などに受け継がれ、戦争にも利用されたという。
同様に馬上で投射兵器を扱う兵種としてクロスボウ騎兵にも内容が割かれており、ボヘミアやオーストリアでは15世紀以降騎兵のうちかなりの割合をクロスボウ騎兵が占めるようになり、のちのピストル騎兵の先駆者としている。
当時の狩猟書や図像史料・軍事書だけじゃなく文学面から弓・クロスボウの社会的地位について述べてたりと興味深い内容だがいかんせん正誤について論評できるだけの知識がない。
ただ騎乗しながらクロスボウを扱い、狩猟を行う行為自体はフェリペ2世などもやっていたので、上流階級の外交の一環として行われる狩猟に弓騎兵が利用されていたとする著者の仮説にはそれほど違和感がなかった。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3le7to4ehbs2c
平田昌司著「『孫子』の読書史」
クソ面白い。
タイトル通り孫子の書かれた古代中国から現代アメリカまで、孫子がどのように受容され、読まれていったのかを写本の変遷を踏まえつつ丁寧に辿っていく内容。
紀元前の時点で単なる兵書としての枠を超えて当時の商人に読まれていた形跡があるらしく、孫子を読むビジネスマンそんな時代からいたんだとなった。この辺り「‘ゆるさ’の享受」の根強さを伺わせて面白い。
日本では孫子が何度か忘却されては復活するという事を繰り返してるっぽいのは興味を惹かれる。今後また忘れられたりする日が来るんだろうか。
欧米での受容史も興味深い。
アメリカでの孫子受容が第二次大戦後の中国共産党の台頭をきっかけにしているということは、今後中国共産党が衰退したりすればアメリカでは孫子が顧みられなくなる可能性があったりするんだろうか、クラウゼヴィッツの場合はどうなのか?とかいろいろ考える。
著者自身の孫子の読み方も歴史の積み重ねの一つという感があって構成の妙って感じだった。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3ld6x2owy6c2j
Silvia Mostaccio編『Ambrogio Spinola between Genoa, Flanders, and Spain』
アンブロージオ・スピノラの母や弟、妻、支援者、友人、政敵などとの人間関係+人事と、スピノラ自身の評価がどのように構築されたのかを同時代の出版物やフレスコ画、絵画、装飾から読み解いていく論集で構成されている。
当時のパンフレットを分析した第三部第1章はかなり面白く、1605年〜1606年のフリースラント遠征中から行軍の詳細や攻略された都市の重要性、ロジスティクス維持能力の解説みたいなのがイタリアやアントワープで出回っており、当時の「認知戦」の実態が窺えた
人間関係周りの話も面白く、アンブリージオのスペイン軍出仕を弟のフェデリコと協働した「家族プロジェクト」だったとする見方や、母親による教育、共和主義者だった従兄弟からの批判なんかもあり面白い。
ジェノヴァに残った妻にもこうした一族家内関係でなんらかの役割あったんじゃないか?ってのが疑問として残った。
政敵だったLuis de Velascoの話も多くかなり満足した。
人事周りだけでも読む価値がある。
ただ内容は面白かったのに閲覧アプリがよくなかった。
今回ルーベン大学出版会のサイトから電子版を直接購入したんだけど読む際はGlassboxxというアプリで閲覧する、というシステムだった
このGlassboxxはなぜか付箋機能も検索機能もなく、電子版購入した意味の7割くらいが消えた
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lckvxz5dys26
Scott Boston著『Toward a Protected Future Force』
2004年に発表された文章で、当時米陸軍で進められていたフューチャーコンバットシステム(FCS)という将来戦装備調達計画の中で、戦車を置き換える将来戦闘車両が比較的軽装甲であることを批判してたもの。
著者の想定する将来戦が市街地における近接戦闘だったり、相手もニアピアというより格下を想定しているっぽく、2024年に読むとレトロフューチャー感がある。
FCS で想定されていたネットワーク戦に関する批判なんかは逆に今の視点から見ると解決可能に見える
この文書にもFCSに対しても、当時想定されていた将来戦について答え合わせ的なことができそうなのは面白い
あとやはり現代での戦車の意義の語られ方は、近接戦闘での装甲の優位性や他兵科兵種との協働の強調など17世紀初頭の重装騎兵論と似ているってことが確認できた気がする
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3lacykceos42j
渡辺信吾著『中世ヨーロッパの軍隊と戦術』
中世ヨーロッパと言いつつ後期ローマ帝国から記述が始まり主にフランスとイギリスを中心にしながらイタリアやスイスなどにも触れていく構成で、各国ごとのパートではその国の独自性に注意が払われていて過度な一般化を避けた記述になっており、執筆大変だったろうなという印象があった。
「軍隊」パートで取り上げられている事柄が結構幅広く、女性を含む非戦闘員の従軍についても触れられている。
「間口が広くて濃密な入門書」としてはかなり良いのでは。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3l6wirpgh5m2s
Álvaro Soler del Campo著『La producción de armas personales (1500-1700) 』
タイトル通り個人が使用する小火器や鎧、剣などの武器生産とその生産地についての論考で、具体的な数値が多く興味深い。
例えば1543年、当時スペイン王室の主要武器調達先の一つであったバスク州エルゴイバルのある工房では砲兵総監の依頼により18ヵ月で15000丁のアルケブスと同数の火薬入れ、5000個のモリオン兜と2000本のパイクを生産した。
当時の武器生産は分業化が進んでいたため、この事例でも一つの工房だけでなく他地域の工房を含めた複数の武器職人との合同プロジェクトだったと考えられるが、単純計算で1日あたり27個のアルケブスとモリオンォ作らなきゃいけないわけで、プロジェクト管理だけでも大変そう。
しかもこの事例は特殊なものではなかった可能性が高いという。
当時の武器生産者に求められた能力は、単に武器を作る能力だけでなく、こうした巨大なプロジェクトの管理能力も求められることもあった、という理解。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3laiw7vs6gy2x
Keith Dowen著『THE SEVENTEENTH CENTURY BUFF-COAT』
17世紀に金属甲冑に代わって着用されるようになったバフコートについてのエッセイ。
個人的に興味を惹かれたのがイングランド内戦時のバフコートの価格に関する記述で、著 者は胸甲騎兵の甲冑に比べて半額程度、槍兵の防具の倍額であり、火縄銃騎兵の甲冑とだいたい同額くらいとしている。
これが妥当だとすると金属甲冑からバフコートへの移行要因を経済的なコストで説明することはどの程度妥当なのか、という議論になりそうな気がした
著者は武器・防具研究の文脈でこのエッセイを書いているっぽく、製法やデザインに割と多めに尺が取られている
普通の皮革製品と違って革鞣しに海棲哺乳類の脂肪を使ったりするとか、革鞣し自体のやり方も詳しく書いてあって割と面白い。
そもそもバフコート自体ほとんど研究されてこなかった、という話はちょっとわかるものがある
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3l5u4gjimlp2t
清水有子著『近世日本の形成とキリシタン』
平川新らのイベリアインパクト論批判の内容かと思ったらタイトル通り「近世日本の形成」に関わる内容でびっくりした。
日本におけるキリシタンの受容とその規制から完全な排除に至る動向をイベリア勢力脅威認識論へのクリティカルな反論を含みながら追っかけ、最終的に『鎖国』体制の成立を描く内容で、日本史詳しくないがかなり刺激的な内容なんじゃないかと思われる。
秀吉の宣教師追放令が、国外勢力への侵略に対処するためでなく、一向一揆との経験を踏まえた宗教統制策として行われ、徳川政権下で宣教勢力の変化や南蛮貿易を代替する新教国の登場を受けて強化されていく流れがわかりやすい。
個人的に面白かったのが第三部第三章の国外向け国書に使われた紙や入れられた箱を検討していくパートで、新興の『南蛮』勢力との外交を割と手探り感覚でやってた要素があるのかなと思った。
またインド副王宛書簡の訳文作成で、秀吉が書簡本文との差異を許容していたように読めたけど、これはルソン向け書状でも同様に秀吉の許可のもとで訳文の改変が行われていた可能性があると考えていいんだろうか?
単なるイベリアインパクト論への反論だけでなく、歴史学のより広い範囲に影響与える可能性を感じる面白い本だった。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3l4vkuiifsl2u
アントゥリオ・エチェヴァリア著『Military Strategy: A Very Short Introduction』
軍事戦略の分類とそれぞれに関する要約・実例による限界の解説って感じで大変読みやすくてよかった。 軍事理論系の本なのに読んでいても眠くならないのはすごい。
個人的には抑止戦略の限界の一つとして「抑止の効果は判断できないケースがある」というのと「Cyber power」に関して著者が陸戦や海戦の用語を借用して解説することに否定的だったのが印象に残った。
サイバー領域に関しては侵害や拒否が行われるバイナリ領域と情報戦や宣伝戦が行われるノンバイナリ領域を分けた方がいい気がするけど、この本の発行以降だとどうなってるのか割と気になる。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3l4akpco66t2y
Faith S Harden著『Arms and Letters』
近世スペインの8人の軍人・元兵士の自伝的著作について分析した本で、軍事史というより文学評論に近い。
普段軍事史の本の中で見かけない単語や表現、言い回しがいっぱい出てきて読むのにめちゃくちゃ時間がかかってしまった。
ただ近世ヨーロッパの元兵士の自伝の評論をやるというコンセプトがまず割とおもしく、著者の分析も参考になる点が多い。
著者の焦点は兵士たちの持つ栄誉(Honra)概念に当てられていて、異なる時代・地域で活動していた兵士たちがどのような栄誉を求めていたのかを解明していく。
結論としては、兵士にとって栄誉とは経験的に構築されるもので、異なる経験によって異なる栄誉概念が構築されていく、また逆にここの兵士の持つ栄誉概念から兵士個人の経験を推察できる、という感じだった。
実際この本の中でも兵士個々人の著作に現れる個人的な経験に注目していて、そこが面白い。
取り上げられている兵士のキャリアも多彩で家畜泥棒からゴンサロ・フェルナンデス・デ・コルトバの側近にまで成り上がったとか騙されて北アフリカの要塞に連れて行かれた後12年間そこにいて不正な手段使ってイタリアに脱走した後とある街の有力な家に婿入りして歴史書の執筆をやるけど結局未完とか修道院から脱走して男装して南米に渡り兵士になるとかあって良い。
兵士たちの価値観の理解だけでなく、当時の著作をどう解釈していくかという点でも読んで良かったと思った。
ただ難しい英語を使いまくってるのでちゃんと理解できている気はあんまりしない。邦訳してほしい。
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Alberto Raúl Esteban Ribas著『THE BATTLE OF NORDLINGEN 1634』
結論部の「なぜネルトリンゲンの戦いはブライテンフェルトやリュッツェンと比べて重要視されないのか?」という著者の問いは30年戦争期の戦史研究のバイアスを指摘してて面白いものがある。
個人的にはグスタフ・アドルフを英雄視する史観の影響をずっと引きずっているイメージがあり、戦例研究で対象とする戦例の選別とそのバイアスが研究史にどういう影響を与えたか、という点では他の時代・地域においても問題だよなと思ったりした。
なお本の内容としてはスペイン側から描くネルトリンゲンという感じで、この本自体にスペイン側へのバイアスがかかっとらんかと感じなくもない。
それでも夜戦の経緯などが詳しくわかる記述があったりと大体満足した。
Heilon社の電子書籍買ってみたの初めてだが、PDFで買うとkindleより安いのかなりよかった。このシリーズからはいろんな時代地域の戦史が出ていて何故か肥後国人一揆の本があったりする
www.helion.co.uk/military-his...
分厚いオスプレイ戦史シリーズみたいなコンセプトかもしれない
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3kpjfweucpw2y
John K. Thornton著『The Art of War in Angola, 1575-1680』
題名通りポルトガルの中央アフリカに対する侵攻における戦術と戦争がどのような性質を持っていたか、という点を解説した論考で、ヨーロッパと「非ヨーロッパ」の比較軍事史として優秀な気がする。 舞台となる中央アフリカでは馬の長期的な維持が困難なためアンゴラ側の兵士が取る散開隊系に対する有効策がなく、むしろ胸甲と剣で武装した重装歩兵が決戦兵力として重要だったとか興味深い観点が多い。
軍事的な面から見るとアフリカ諸国がヨーロッパ化したのではなく、ヨーロッパ勢力がアフリカ化した、と言えそうな結論になるのも良い。 「軍事的合理性」の環境決定論的側面を割と強く感じさせてくる。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3ko2s73dfvl26
Treva J. Tucker著『Eminence over Efficacy: Social Status and Cavalry Service in Sixteenth-Century France』
読んだ。重装騎兵や胸甲騎兵などの騎兵種の持つ社会的ステータスに注目した論文で、16世紀のフランスでは重装槍騎兵の社会的ステータスというか人気が貴族層のなかであまりに高かったため、軍事的効果よりも個人的武勇を発揮できる兵種や戦術を優先していたのではと考察している。
割と疑問符が多く、例えばフランスで中騎兵の地位が低かったなら短銃を装備した胸甲騎兵が生まれたドイツではどうなのかとかいろいろ疑問が浮かぶ。
ただカラコールに対して個人的栄誉を発揮しやすい戦術であるように見えるために人気が出たのでは、とするのは眉唾 したくなるが面白い視点ではあると思った。
あと著者の提示するフランスにおける短銃を装備した胸甲騎兵と縦深の深い騎兵隊列が普及していくタイムスケール(最初にフランス騎兵がドイツ胸甲騎兵に敗北してから30年ちょっとでフランス内に普及し終え優位を確立)は割と説得力を感じる
ドイツやフランドルの状況と比較したくなる感じだった。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3kmfwxkpvob2v
Olli Bäckström著『Military Revolution and the Thirty Years War 1618–1648: Aspects of Institutional Change and Decline』
騎兵・民兵・常備軍・兵站組織の四つの組織が30年戦争を通してどのように変化あるいは衰退したのかを通してロバーツの軍事革命論を論じ直すという内容で、社会学や組織論の理論が近世の軍事的組織に対して適用されていく内容が割と興味深い。
著者は30年戦争の時期に軍隊に大きな変化が起きていたとする立場で、変化の要因ではなく各々の組織にどのような変化が起きていたのかを論じていく。
組織のライフサイクル論や階層化、特殊化みたいな軍事史ではあまり見ない概念が出てくるので軍事史というより社会史の本なのかもしれない。
ただそれでもこの本で対象となる7カ国の各組織の変遷を知れる点で有益だし特にデンマークの記述がかなり詳細なのは珍しいんじゃないかという気がする。
軍事的な効率性みたいな側面がほとんどされてないにも関わらず、社会学理論だけで近世の国家が軍隊への統制を強めていく過程が説明できるのは面白いなと思った。
https://bsky.app/profile/a3dayo.bsky.social/post/3klctpx6k6l2h
サビーネ・フリューシュトゥック著『「戦争ごっこ」の近現代史』
在日米軍が「萌えキャラ」を広報宣伝に使っていることに対して米軍内部の性暴力事件を引いて問題視されない理由がわからない、と言っているが、性的暴行の告発後だと自衛隊にもそのまま適用できそうになってしまった。
原著が2017年。
https://fedibird.com/@a3dayo/111690451090525741
林田敏子著『軍事作戦とフェミニニティ』
ジェンダー軍事史でたまに出てくるジェンダー規範を守ろうとして滑稽なことになるやつかなり好きかもしれん
開戦の前年である1938年に出された法令は、女性がいかなる武器を使用することも禁じていたため(Peniston-Bird 2014, p. 13)、AA 部隊の女性の任務は敵機の位置を確認し、これに照準を定めるところまでとされた。高射砲に弾を充填し、発砲できるのは砲手(gunner)と呼ばれる男性戦闘員のみで、たとえ標的が無人パイロット兵器であったとしても、女性はこれを「殺す」ことは許されなかった。高射砲を操作する砲手は戦闘員、そのすぐそばで高度測定機を扱う女性は非戦闘員という建前が維持されたのである
https://fedibird.com/@a3dayo/111602423428478532
Hélder Carvalhal著『THE FIRST WORLD EMPIRE Portugal, War and Military Revolution』
近世ポルトガル軍事史の話だが、ポルトガルがヨーロッパ内の戦争に比較的加わっていなかったこともあってヨーロッパ外の話が多くかなり新鮮だった。あとLorraine Whiteが書いてたのも嬉しい驚きだった。
内容は砲兵技術者の人間関係から東南アジアの現地民の手による要塞まで幅広く、特にポルトガルのアフリカ侵攻を取り上げたMiguel Geraldes Rodrigues『The Portuguese conquest of Angola in the sixteenth and seventeenth centuries (1575–1641): a military revolution in West Central Africa?』はめちゃくちゃ良かった。騎兵が存在できない環境で散兵として戦う弓兵がめちゃくちゃ強いの異世界転生みてえだみたいな雑感想が浮かんできた。
軍事史研究が国際化に進むことは良いことだと確信させる内容で、もっとヨーロッパ外に特化した本が読みたくなる。
https://fedibird.com/@a3dayo/111217271376364204
Tomoaki Shinoda著『Development of a standing army in 15th- and 16th-century al-Maghrib al-Aqṣā』
アフリカにおけるポルトガルと現地の関係描いた論文として面白い。
知らない固有名詞ばかりなので理解できてるかは謎だがMakhzaniyyahという語が当初はポルトガル麾下の税金から支払いを受けるムスリム騎兵部隊に対して使われ、後にその対象範囲が広がっていくというのは軍事を通した交流みたいなダイナミクスがある
https://fedibird.com/@a3dayo/110365605837539478
CHARLES H. CARTER著『BELGIAN "AUTONOMY" UNDER THE ARCHDUKES, 1598-1621』
アルブレヒト大公時代のスペイン領ネーデルラントの自立性についてのエッセイで、割と示唆に富むところが多い。 著者はベルギーの歴史家による自立性を強調する主張についてかなり批判的で、あくまで状況に応じてアルブレヒト自身が発揮した能力によってそう見えているだけとする。
面白いのはこの能力がフランドル駐留軍トップのアンブロージオ・スピノラやスペイン人であり、フランドルにおけるスペイン軍関係行政を行う機関のトップJuan de Mancicidorとの個人的な関係に依っていたと著者が捉えているっぽい点。
特にスペイン側の本来の意図としてはMancicidorは監視役だったろうにそれを取り込むことによってある程度自立してしまうという。
このエッセイ自体は1960年台のもののため、割と軍隊への影響力などについては古いんじゃないかと思うが、それでも面白い点が多かった。
メモ:1627年の結婚した兵士は今後昇進を認めないとする実質的な結婚禁止令
https://fedibird.com/@a3dayo/110232183297372632
兵勢社『征論』
こういう複数テーマで複数人が書くやつはいろんな見方があったり予想外のことを知れたりするが、テーマの多様性度合いが凄すぎる。
「ウクライナでの戦争 ─視点・論点の整理─」はタイトル通り戦争の記述よりも戦争に対してどのような論じられ方があるかという整理だった。出典の偏りという弱点はあるにせよこうした整理は現在進行形で起こる不確かな情報に溢れたイベントでは重要と言えそう。
「ウクライナのユニコーン ─Gitlab─」はウクライナのユニコーン企業の紹介。転職してえ〜となったがスキルがない。
「Lorraine戦役とその忘れられた論争について」これは議論が予想外の方向に進んでいき大変良かった。正反対の評価を下した論者たちの背景に焦点当てて戦史研究の一種の政治的利用を浮かび上がらせていくのがすごい。こういうのがきっかけになって戦役自体が思い起こされると良い。
「クストリッツァ映画作品レビュー集」一読してアンダーグラウンドの監督がマラドーナのドキュメンタリー撮ってたことにかなり驚いた。かなり詳細なレビューで映画見なくても知ったような気になれてしまいそう。黒猫・白猫が気になる。
「フランス敗れたり現象を考える」ヨーロッパ西部戦線でのフランス敗北が日本である種のブームになった要因について探る論考。これも非常に良かった。つい直近の戦争の受け取られ方と雑な比較をやってみたくなってしまう。
「人民解放軍の火力誘導部隊」PLAの空陸協同の取り組みを中国国内の報道から追った論考。 本論とはあまり関係ないが「軍隊の高度化」の実態について垣間見えるところがあって興味深い。あと主に教育体制や役職といった面に注目してるが機材などのハードウェアにも変化が見られるんだろうかというのが気になった。
「第二次ロンドン軍縮会議と宣伝」これも面白い。軍部による直接的な戦史の政治利用例と言えそう。
「CVA-01とインヴィンシブル級」軍事力がどのような経緯を経て成立したかという話。全くの門外漢ながら非常にバランスが良いように感じた。軍事的な合理性よりもむしろその時々の都合によってしばしば予測できない方向に変化していくものだと実感させられる。「スエズ以東」概念が気になってくる
世相を反映したのか、直球の戦史というより戦史の語られ方にフォーカスしたものが多い印象を受けた。
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Paul James Stewart著『THE ARMY OF THE CATHOLIC KINGS:SPANISH MILITARY ORGANIZATION AND ADMINISTRATION IN THE REIGN OF FERDINAND AND ISABELLA, 1474-1516.』
フェルディナンド2世時代の軍事改革を扱った論文で1536年にテルシオが登場するまでの変化がかなり詳細に書かれてる。
元々都市の自衛組織だったHermandadが王権の下に組み込まれていく経緯や、軍隊の人事権を王室が握る経緯などは今までよく知らなかったのでありがたい。
イベリア半島沿岸部の要塞駐屯部隊の監督の話はかなり参考になり、「16世紀のスペイン軍の組織改革はイベリア半島で起こり、戦術改革はイタリア半島で起こった」とする見解の理解度がかなり深まった。
当初騎兵部隊が先行していた「常備軍化」が最終的に歩兵に波及する流れとして重要でもありそう。
1961年の論文だが他に類書もあまりなさそうなのでかなりいいものを読んだ。
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Gregory Hanlon著『Italy 1636: Cemetery of Armies』
三十年戦争史の中でもあまり触れられることのないイタリア戦役について、Tornaventoの戦いを中心に1636年のキャンペーンを詳述した本。個々の記述には疑問点もあるが、全体的に面白かった。
フランスのイタリア侵攻計画に始まりsmall war的な敵地の経済破壊を目的とした行軍中の掠奪・破壊行為や、対抗するスペイン・ハプスブルク家の防衛計画、さらにTornaventoの戦い後の負傷者の治療や蔓延する疫病、当時の衛生意識などにページ数を割き、
会戦だけでなくその前後の両軍の行動を書くのはかなり良い。 特に会戦後のスペイン軍の追撃はイェンガムの戦いを思い起こさせる感じで興味深い。 こういう形で戦役全体を描く叙述は三十年戦争後半ではそれなりに貴重なんじゃないかと思う
一方で、問題点としては兵士の戦闘意欲について進化心理学持ち出す箇所や、当時の銃撃戦で死傷者が少ない理由にグロスマンやマーシャルの説明を出してくるのはかなり問題があると感じる。
前者についてはそもそも進化心理学自体がevo-devなどのここ40年くらいの進化生物学の知見をまるっと無視してそうなところが原因っぽいが、後者はこの本の中の記述とも矛盾してねえかという気がした。
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藤田達生著『戦国日本の軍事革命』
前提知識全く足りないまま読んだが銃兵訓練の必要性→財政基盤の必要性→集権体制の確立というまさに古典的なやつで、砲術師・鉄砲隊の専門性に着目するのは良いと思ったがそこから石高制の成立に話を持っていくのは突っ込みどころいっぱいありそうという感じ。 この本そのものではなくこの本への批判が有益なものになりそうな雰囲気はある。 あと斉射戦術に関してジェフリー・パーカーを持ち出すのはやめた方が良いのと第二章あんまり必要なくない?という気がした。
https://x.com/a3dayo/status/1516147721085734912?s=20
Paul Sutton著『The Anglo-Spanish War 1655-1660』
イギリスの南米スペイン植民地攻略のための遠征がすごい勢いで失敗する話だった。 陸軍が1年弱で実働人員2割になったり、上級指揮官5人全員が離脱又は死亡して指揮とる人間がいなくなったりととにかく凄まじい。 最初の拠点攻略作戦のサント・ドミンゴの時点で陸・海軍間の不和が原因で主力の上陸地点の選出を誤り、上陸してからは暑さと乾きに悩まされ、ようやく目標に着いても指揮官の不明確な判断で反転し、宿営地は人口過密すぎて疫病が流行し、主導権も失い二度目の攻撃も道中で待ち伏せを食い失敗、その結果士気喪失して人口も防備も少ないジャマイカに転進し、街の一つを占領するが、島の大部分を降伏させることに失敗して街に押し込められ、そこに飢餓と疫病が襲いかかり、分散自活しようとするも失敗し…という感じで、あらゆる判断と準備不足が伏線になって遠征を崩壊させていく展開がすごい。
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Pierre A. Picouet著『The Franco-Spanish war: the Sieges of Lleida from 1644 to 1647』
いわゆるカタルーニャの反乱中に三回発生したレリダを巡る攻囲戦についての本で中々良かった。特に第二次包囲戦の補給路を巡る争いと第三次包囲戦中に包囲されている側のスペイン軍の逆襲が興味深い。
第二次包囲戦ではレリダを攻囲するフランス軍に対し救援部隊はフランス軍の頑強な包囲線への攻撃を諦め、レリダより前方(フランス軍から見ると後方)の拠点を占拠し、フランス側補給線の遮断を試みる。フランスはこれに対しより大規模な輸送部隊を編成、スペイン軍の警戒線を突破することに成功する。
結局スペイン軍は補給線の遮断を諦め、よりリスクの高い包囲線への攻撃に移り、フランス軍13000名に対しスペイン軍8500名と数的に劣勢ながら夜襲を成功させ、フランス軍を撤退させることに成功する。
第三次包囲戦ではあのコンデ公がカタルーニャ方面のフランス軍指揮官となりレリダを攻囲、この時期政治的に微妙な立ち位置にあったコンデ公は迅速なレリダ制圧を目指し優勢な砲兵火力による砲撃と坑道戦を開始するが、性急な包囲のため塹壕を十分に整備出来ず、何度もスペイン軍防御部隊の逆襲を受け、砲を破壊されたり坑道に侵入されたりと大きな被害を被る。フランス軍兵士の間ではスペイン軍指揮官Gregorio de Britoが狼に変身しフランス包囲線をスパイしているという噂まで流れていたらしい。結局コンデ公はスペイン軍救援部隊の存在が確認されたことなどから撤退する。
フランス側の輸送・動員能力とスペイン側の夜襲能力が印象に残ったが他にも諜報や二重スパイなど面白いエピソードがいろいろ載っていて良かった。
あと出版しているThe Pike&Shot Societyは隔月で近世軍事史専門の雑誌出版してる団体らしいが、リビジョニスト派っぽい雰囲気。https://pikeandshotsociety.org
https://x.com/a3dayo/status/1482292596474974208?s=20
ジェイソン・C. シャーマン著『弱者の帝国』
めちゃくちゃ面白かった。
「軍事史にダーウィニズムを持ち込めると思うな」「個々の戦例を一般化して理論立たせた気になるな」「パーカーの本って緻密に史料集めて載せてて本人の軍事革命論を台無しにしてるよね」など皮肉抜きに正座して読むべき内容がたくさんあった
あと構成がうまい。ネタバレになるが最後の章でタイムスケールを19世紀を超えて現代にまで拡大したうえで軍事技術の優越と戦争の勝敗は関係ないというのを見せつけてくるのには参る。プロの技って感じがすごい。
今索引で数えてみたら本書中のロバーツへの言及が12回なのに対してパーカーへの言及が27回と大幅に差があって笑ってしまった
内容的に仕方ないと言えば仕方ないが
https://x.com/a3dayo/status/1362068786740822023?s=20
I.A.A Thompson 著『Money, Money, and Yet More Money!』
スペインにおける16〜17世紀の軍事費支出は大砲や銃、火薬などの製造費や要塞の建築費ではなく、単純に兵員数によって決定されていたとした上で、軍事費支出の拡大が見られる4つの時期について資金調達などを分析している。
その分析から軍事革命が起きたとされる時期に軍事支出の増大をもたらしたのは戦術面・技術面ではなく、戦略面と長く続く戦争にあったとしてる。更にこの時期に絶対主義の確立に失敗し、軍事支出を維持できる財政保護的なシステムを構築できず、自己破壊的な応急処置を取ってしまい、理論上は絶対主義だが、実際には制限された権力しか持たない中央政府が出来上がってしまったとしている。
面白い論文だし何よりタイトルが良い。
https://x.com/a3dayo/status/1005843023433891840?s=20
白幡俊輔著『軍事技術者のイタリアルネサンス』
数年前に金欠で買えずに立ち読みで済ませたきりだった『軍事技術者のイタリアルネサンス』、購入して読んだところ、やはり名著だという感想を得た。 多角形稜堡の成立史についてここまで丹念に追った本はなかなか読めない。
旗代太田著『Pike and Shotの時代: 歩兵の基礎』
特に『Push of Pikeの実相』が当時の多様な議論を整理しつつパイク兵による戦闘の実態が非常にわかりやすくまとめられてて大変よかった。ここまでのレベルのは英語圏の商業出版物でも見たことない気がする。
日本ではホール等の影響でパイク兵の防御的な性格ばかりが強調されてる気がするが、そんな中でパイク兵の攻撃的な面が本としてまとめられるのはかなり有意義なことなんじゃなかろうか。
https://x.com/a3dayo/status/1479800375582785537?s=20
Henry Kamen著『Alba: Statesman and Diplomat』
アルバ公の政治家・外交官としての面を論じた論説。ネーデルラント統治の6年間だけでなく、それ以前からの政治的活動に焦点を当てている。
常に宗教的対立よりも政治的対立を問題視し、プロテスタントに対して時に寛容とすら思える態度をとったり、ネーデルラントで異端的とされかねない出版物を出すなどのアルバ公の言動を詳細に論じ、『狂信者』ではなかったアルバ公を描き出している。
一方で、感情をそのまま口に出すため味方を減らしていったことや、政治家には性格的にあまり向いていなかったこと、ネーデルラントでは政治的対立を重要視してしまったためにむしろ宗教的対立を煽ってしまったことなどアルバ公の失敗についても触れられている。
タイトルから受ける印象と違い、どちらかというとアルバ公の個人的な性格の面に強く踏み込んでいる感がある。
特に興味深かったのがアルバ公の肖像画の話。 一枚目は1649年に描かれたもので、二枚目は1568年に描かれたもの。 実際にネーデルラントを統治した時期は物静かな印象を与える2枚目の方だが、アルバ公のイメージとして広まってしまったのは一枚目の方で、これが幾人かの美術史家に影響を与えてしまい、ブリューゲルの『嬰児虐殺』がスペイン軍の侵攻に反対して描かれた、なんて誤説を広めてしまったのではないか、ということが書いてある。
https://x.com/a3dayo/status/1034479966442778625?s=20
Thomas Arnold著『Renaissance at War』
16世紀の軍事に関する教科書的な本だった。
フランスとイタリアが中心に取り上げられているように感じた。東欧や北欧は触れられていない。
全体は導入+一般的な変化に触れた前半3章+個別の戦争に触れた後半3章の7つのパートに分かれる。
前半の3章ではそれぞれ大砲とイタリア式築城術、古代の文献の復活と歩兵の火器戦術、貴族層の変化と騎兵の火器戦術について語られ、後半3章では主に地中海を舞台にしたキリスト圏とイスラム圏、イタリア戦争、ユグノー内戦と八十年戦争前半の経過が語られる。
前半のうち特に興味が持てたのがイタリア式築城術の誕生に至る経過と古代の文献が復活した理由だった。
イタリア式がなぜ稜堡を備えたかや古代の文献が必要とされた理由について詳しく語られていてこれまで知らなかった知識を得ることができた。
後半についてはほとんど戦争の経過しか触れられていない。ただし、地中海からアラビア湾に至る戦闘や第二次ロードス島、マルタ、アルカセルキヴィール、ラヴェンナ、パヴィア、ローマ、イタリア戦争末期の北フランス戦役、第二次アントワープ、パルマ公のフランス侵入については絵入りの図解あり
引用文献がまったく示されてなかったり細かい数字が出なかったり概要ばかりだったりと不満点はあるけど、参考文献が解説付きで載ってるので詳しく知りたいならそれを読めということなのかも。
https://x.com/a3dayo/status/809894315665170432?s=20
José Antonio Pérez Gimena著『DE GRANADA A PAVÍA. LA EVOLUCIÓN DEL EJÉRCITO ESPAÑOL DESDE 1482 A 1525』
割とかなり微妙な気がするやつだったが、15世紀のAlonso de Palenciaが規律の重要性を訴えてるとかいくつか興味深い記述もあった。
イタリア戦争中のゴンサロ・コルドバの各戦例についてもそれなりに触れられていて、割と信用できそうな記述になっている。少なくとも他のスペイン語圏の研究者と大きく乖離しているわけではなさそう
あと1503年のサルサス包囲戦で救援側のスペイン軍が歩兵4万騎兵1.2万を集めたって記述、事実なら大変興味深いが、出典がついてなくて判断できないのが残念。
https://x.com/a3dayo/status/1455746288998236160?s=20
Terence Christian著『An Analysis of the European Fire Lance for Munitions Staging, Range and Lethality: A brief summary』
アルマダの沈没船から引き上げられた「Fire Lance」と呼ばれる木製銃器を複製し、発射実験を行うことで武器としての殺傷性・有効性を確認しようとした論文の要約。
再現実験の結果はFire Lanceの複製は複数回の発射に耐えることがわかった一方で殺傷性は低く心理的な効果を狙ったものだろうって結論になってるが、1588年に出版された砲術書『Three bookes of colloquies』のレシピに記載のある遅燃性混合物が発射炎の大きさと持続期間を向上させるって事実は面白い。
発射炎の大きさと持続期間が向上すれば相手に与える心理的効果も大きくなることが予想されるし、何より1588年の段階で硝酸化合物の性質がかなり理解されていたと言うのは割と驚異的な気がする。
当時の火薬兵器のレシピの中には消えない松明とか橋などの建造物を破壊するための爆弾とか色々あるが、一つづつ再現して効果を検証してみるみたいな実験考古学的な研究があってもいい気がしてきた(もうあるかも)。
あとEarlyEnglandBooksOnlineの軍事関係書籍だいたい読んだ気がしてたけど意外とそうでもないことがわかった
Three bookes of colloquies https://quod.lib.umich.edu/e/eebo2/A13381.0001.001?view=toc
https://x.com/a3dayo/status/1400074415182778373?s=20
Andre Schurger著『Theoretical calibre specifications of hackbuts and matchlock muskets in 16th and 17th century military handbooks』
戦場考古学のカンファレンスで発表された1630年代頃までの口径をめぐる銃器史の話。二次資料多めだけどドイツ語圏のものが多いおかげで新規性感じる。
当時の軍事文献にしばしば記述されるが混同されやすい銃の口径と弾丸の直径の話から17世紀初頭に始まる小口径化と軽量化、その後の大口径への回帰が、当時の軍隊における銃器の多様性を踏まえつつ短くまとめられててわかりやすい。
あとこのFields of Conflictってカンファレンス、2016年の発表を全部公開してくれていて大変親切。内容的にも古代ローマから第二次世界大戦まで幅広いっぽい。
fieldsofconflict.com/c_conf_papers.
https://x.com/a3dayo/status/1399950457414447106?s=20
André Schürger著『The archaeology of the Battle of Lützen: an examination of 17th century military material culture.』
リュッツェンの戦いの戦場考古学的調査の論文。
文献調査と考古調査を組み合わせて非常に説得力がある戦闘叙述になっててすごい
白眉なのが戦場で見つかった銃弾のサイズから銃器のモデルとそれを使用していた部隊を先行研究や文献調査に基づいて特定していく第5章。
第8章の戦闘の叙述も目撃者の残した一次史料をフルに使いつつ、スウェーデン軍最右翼や皇帝軍右翼は考古資料に基づいてブレジンスキら最新の研究にもない新たな知見提供してて新規かつ説得力高いものになってる。
長いが全部読む価値のある論文。
https://x.com/a3dayo/status/1329887743673921537?s=20
終わり
特にタグ付け等をしていなかったTwitterでの感想ポストはもっとありそうだが、キリがなくなりそうなので一旦終わり。






