三分の一

16世紀西欧軍事史やテルシオについて書く。

【部分訳】Ludovico Melzo著『騎兵の指揮と職務に関する軍事規則』第1巻

はじめに

本稿はフランドル派遣軍で騎兵副総監を務めたLudvico Melzoの著書、『Regole militari sopra il gouerno e seruito particolare della caualleria』のスペイン語訳『Reglas militares sobre el govierno y servicio particular de la cavalleria』第1巻15章分のうち、1〜6章を訳したものとなる。
原著は騎兵に特化した軍事書としてフランドルで12年休戦が成立した後の1611年にアントワープで出版され、その後本稿で参考とした5巻構成のスペイン語訳が1619年に出版された。
本稿の訳出部分の内容を大雑把にまとめると、兵卒から中隊長に至る各階級が各章ごとに分かれており、それぞれに求められる素質や役割、モラル、そして愚痴*1が詳細に書かれている。

参照テキスト:Catalog Record: Reglas militares sobre el govierno y servicio... | HathiTrust Digital Library

第1章 騎兵部隊の公式な編成について

あらゆる良好な規律ある軍隊では、その結果として招集すべき歩兵の人数が決められ、抜きん出た国家を形成する騎兵の打撃を貪欲に求めなければならない。この論考は、多様な国や土地で歩兵の人数への敬意のみにふれられ、取り残されていた軍事規律のある部分や大学と真の芸術の学校が花開いたフランドルにおける習熟と実施の上に成り立っている。このために、(例えば)歩兵15000人の打撃を高めることが望まれる場合には、他に1中隊あたり100人の騎兵をもつ40個の中隊から集められた4000人の騎兵との協調が必要であると書いた。これら40個の中隊は、10個は槍騎兵で、18個は胸甲騎兵、残り12個は火縄銃騎兵でなければならない。
この騎兵集団はその将軍(General)、副将軍(Tiniente general)、主計将軍(Comissario General)、槍騎兵・胸甲騎兵・火縄銃騎兵の中隊長たち(Capitanes de lansas, de Corazas, y de Arcabuzeros)、先任補給官(Furriel mayor)とその助手たち(Ayudantes)、司法官(Auditor)とその法務大臣たち(Ministros de lusticia)、そしてその他の多様な事柄を扱う者たちを持たなければならない。
私自身が論争に加わることを望むわけではない。しかし槍騎兵やまたは胸甲騎兵の兵務については、この論考ではそれらやその他のものは火縄銃騎兵の兵務と同じく有用であり、必要でありかつ利点があったと理解されるだろう。

第2章 騎兵の兵士について

騎兵としての兵務を望む兵士は共通して、我々が歩兵に必要とするのと同様のものを想定されなければならない。これは健全な敬礼、その仲間の活力、適した年齢(通常20歳から40歳まで)、この役割に真面目に励み、熟練する願望があり、それを学ぶこと、その兵務と利益のために先任職より上に昇任する活力があること、その職務の義務を従順に、かつ優秀に果たすこと、のちに言及するように几帳面かつ誠実であること、確かな導きであり人間の行動の指針と我々の終に向かう徴であり全き善である神を恐れること、悪徳を嫌悪すること、兵士の肉欲と泥酔───それらは疫病であり、部隊を衰弱させ、その魂と勇気、そして強さを失わせる───から逃れなければならないことである。
しかし、特に述べるのは、騎兵には歩兵のような頑強さは必要ではないが、機敏で軽快な身体でなければならず、極端にいえば、ずっと軽快である方が望ましく( y ultra desso convendría mucho que estuuiese acostumbrado, y suelto)、特に馬に乗った場合に軽快に運動できるということである。騎兵の招集において言われる意見で一般に受け入れられ、非常に認められている意見が、騎兵は全ての男が騎乗の仕方を教えられているようなより広い土地に適しており、都市内部、囲い地などでは礼儀正しく過ごすということである。 また騎兵固有の性質のため、騎兵がその守りなく敵を探すに行く際には、意思と勇敢さをとても褒め称えられ、そしてそれとは対照的に、無用さ、勇敢さの欠如、怠惰に染められていく。 良き騎兵であろうとするには、不眠でなくてはならない、奇妙なことにそれができたときに、より注意深くなるのだ。また以下のいかなる場合も注意を怠ってはならない。彼らの食事を探し求めるために、家々に入り、その食事を大いに食べること。
他ならぬ軍においても、常に服装の清潔さ・身綺麗さを保ち、破れた箇所の布当て、軍隊において兵士の見た目が悪くなる原因であり、結果として自分の身を守るためにそれらを利用する際に大いに不便を招く、悪いボタン、その他の違反や破れたシャツは最小限にするべきであることははっきりしている。 ピストル、火縄銃、騎槍、その他あらゆる武器は、軽薄で不便な服装で派手に扱うのではなく、高貴な兵士が身につけるべき野外で便利な清潔かつ質素な服装で、十分に注意し、慎重に扱うこと。
全ての騎兵は、宿営地を離れた時から決して側を離れず仕え王子の色の飾り帯を着けなければならない。もし王子の側を離れれば、1人だろうと集団だろうと、統制を良く効かせようとした場合でも厳罰を受ける。この伝統と習慣は部隊に多くの利益をもたらせしめる。兵士達は紳士的に仕えることを身につけるからだ。また貧しいために身分を落とし、それを部隊の者に知られたくないために敵の旗を持って村を略奪しに行ったり、その他下劣なことをしない兵士を際立たせることにもなる。その上戦闘が起き、戦火を交えられ、また衝突が激しくなった時でも、数々の部隊によって知られており、私も見てきた、同じ仲間の兵士によって、重傷を負わされたり、殺されたりする同士討ちから仲間の兵士を守ることができる。

第3章 分隊伍長(Cabo de esquadra)について

槍騎兵・胸甲騎兵中隊には分隊伍長はいないという意見が幾らか見られるが、それらにも分隊伍長は必要とされている。私の経験から発見したことは、分隊伍長無しではそれらの兵務は十分統制することができないということだ。分隊伍長の助力により部隊を分隊に分けられるのである。それらの分隊も立哨の役割が回ってきたときに兵士を保証に立たせる助けをする副官(Tiniente)がいなければならない。夜間に幾らかの人数の兵士を派遣する時には、一個分隊を派遣するのが大変易しい。また一個中隊全員を同じ場所に泊めることができない時や、同じ土地にまとまって宿泊するが割り当てられる家の数が少ない際に、宿舎の割り当てもより容易となる。そうすると分隊の多くが副官に必要な報告書を任せ、その伍長が宿泊する兵士により注意を向けることができるからだ。
火縄銃騎兵中隊が敵の妨害を打ち破り、先鋒を務め、斥候を送る時は、その軍務は重要な行動や用件、特に斥候を成し遂げるために中隊の経験豊富な分隊伍長に任せられる。 幾らかの場所を確保しなければならない状況が生じたときは、分隊伍長をその分隊全てとともに派遣せざるをえない。戦闘の機会があるときは通常数個の分隊分隊伍長たちとともに戦闘に送られるが、これは副官が戦闘を開始した後でなければならない。哨戒は副官が第一だからである。
これらの分隊伍長達が読み書きを知っていると大変有用である。なぜなら彼らはその分隊の兵士たちのリストを持ち、それを読むことで公平に部隊を分割するからである。分隊伍長たちは中隊長たちからその功績に従って勲章と5%のボーナスを与えられる。

第4章 少尉(Alférez)について

騎兵中隊における少尉の地位は、とても重要で、尊敬されるものである。普通、良い生まれの若い貴族はその地位につこうと志し、しばしば彼らが良い精神を持っていたとしても必要である経験も実践も不足しているにも関わらずその地位が与えられる。彼らは中隊長と副官が不在の場合にその中隊を指揮し、行軍の際は常に中隊の先頭、先頭列の正面で中隊長の後方に位置し、その軍旗とともにある。また、軍旗の正面を横切ることが許されないことに多くの注意を払わなければならない。
槍騎兵中隊の少尉は戦闘が発生した際、中隊長の左隣につき、襲撃の際にも側についていなければいなければならない。この場合、少尉は敵に対して軍旗を砕くよう務めねばならない。また一度軍旗が砕けるのを見るか、軍旗を落とした場合はそれに気を配る必要も感情を抱く必要もない。将軍の許可なく軍旗を再び掲げることができるまで、折れたものを掲げたり、他の場所に掲げたりすることはないからだ。歩兵と戦う機会がある際も同じように軍旗を砕くことを試みなければならない。もし敵が退いたら、騎兵の背後で同様にするべきだ。しばしば軍旗が決して砕けないことがあるが、敵の量とその質に対して、槍騎兵中隊の少尉がその軍旗を(前述のように)砕くことが望ましい。
胸甲騎兵の少尉も同じく行軍の際は中隊の先頭を行き、 Plaza de Armasでの謁見も同様に行う。これらは全て槍騎兵少尉と同様に行う。しかし戦闘時は、胸甲騎兵の隊列の中に入り、後方には三分の二の騎兵を残し、前方の三分の一の兵士はより良い鎧を身につけた中隊で最も信頼のおける兵士を置く。
胸甲騎兵の軍旗は、槍騎兵の軍旗との違いが槍か、より短く、先端から後端まで4本の鉄棒を束ねたもので、壊れず、斬られることもないという点のみなので槍騎兵の軍旗とほぼ同じとなる。中央には良質の鉄で作られた輪があり、そこに2インチより長い一本の鎖を通して吊るし、鎖の先には別の輪をつけ、少尉の腰帯に通すか、首の周りの帯に通す。戦闘開始時までは、槍騎兵の軍旗の場合でも、右手の下で槍と同じようにもつことで、兵士が軍旗を見ることができる。これが胸甲騎兵少尉によって良く行われると、同じ方法で手の剣で軍旗を守る。 中隊に少尉がいない場合、軍旗は元少尉(Alférez reformado)か、それを受け取ることを望む、才気ある別の者に託すべきである。
少尉は中隊全ての兵士を記した名簿を持たなければならない。必要に応じて中隊長、または副官が命令を下し、軍旗の護衛に数人の兵士を送るためである。少尉と共にある兵士は礼儀正しく、特に他者と調和するよう務め、もし友愛を築くのが困難であるなら、それを中隊長または副官に報告しなければならない。

第5章 中尉(Tiniente)について

騎兵中隊の中尉は、騎兵として積んだ優れた技術、経験、才能が必要である。このような地位には通常、危機の時に際立たされる、他の兵士と比べても特別な、より優れた兵士が就き、またそうした兵士は騎兵の低い地位から上の地位へ、分隊伍長から少尉へと階級を踏んで昇進していく。中隊長不在時には中尉が中隊を指揮・命令し、その両肩には平時の全ての地位とそれらの重みが乗る。受けた職務全ては、特に槍騎兵中隊と胸甲騎兵中隊(ほとんどの箇所が占められる)経験のない若い騎兵へ行く。副官は兵士に厳しくあたらねばならず、有用なように几帳面に馬の世話をさせ、良く武装させねばならない。中尉は中隊の行軍中に兵士に良い義務を負わせ、軍を抜け出さないために、兵士の隊列の緩みや悪いものを見張り、兵士が隊列を緩ませず、平等に結束して中隊長と軍旗に続けるように常に中隊の後尾で行軍する。
戦闘の際には、中尉はその中隊での職務に専念し、剣を手に、兵士になすべきことを成せるよう務め、また幾らかの、背を向けさせ、逃げ出そうとする弱さの印を見かけた時は、彼はその兵士を他の者への教訓のため殺さなければならない。
しかし中隊長の不在時に、戦闘が起きたり、疑わしい場所を通過する際には、中尉が中隊長の定位置である先頭に立ち、彼の定位置は元士官(oficial reformado)か、他の副官の役目が果たせる信頼でき、才能のある者に残すべきである。
そのような場合を除き、普通の土地を通過する場合や閲兵の場合、港湾に向かう場合など、騎兵中隊が通常の行軍を行う際には、中尉は中隊長と同じような方法で行軍してはならず、中尉の本来の定位置である中隊の後尾に留まる。槍騎兵中隊と胸甲騎兵中隊は常に先頭で中隊を誘導する少尉がいる一方で、火縄銃騎兵中隊ではこれらとは逆に、少尉がいないため、行軍、戦闘、閲兵、またはその他のいかなる場合においてもにも中尉は中隊長の不在時の定位置である中隊先頭正面に配置されければならない。彼の位置である後尾に、中尉の職務のために最良の分隊伍長を2人配置する際に、忘れてはならないのは、中隊の行軍中に高所や山の斜面を通過する際には中隊の先頭から最後尾まで中隊全てが通過するまで時折立ち止まることである。また行軍中にも時折中隊の先頭からもう一方へ行き、兵士が秩序良く揃っており、望ましいく行軍しているか確認することも忘れてはならない。
騎兵中尉は正確に読み書きを知らなければならない。中尉はその名前と彼の中隊の兵士全ての名前が記された名簿を持っており、また彼が名前すら知ることのない上位のものから手紙または書き記しによって指示を受けるからで、その伝達ではそれを理解できるかどうかが大きな影響を与え、また著しい不都合さを生む。
また、彼の兵士個人全てについて、その財産、勇気が十分な状態にあるか良く知っておかなければならない。なぜならある場所に誰かを派遣するときや、ある状況では誰が使えるかを知っておく必要があるからだ。
ある場所で防衛中隊に加わる際、防衛拠点にいる場合は、中隊中尉を進め、保証からの知らせを受け取り、昼も夜も務め、戦いでは剣を手に取り、与えられた指令をこなすこと。 中尉は自身で歩哨のところまで行き、歩哨が必要な精励さを怠っていないか、常に少なくとも胸甲、背甲で武装し、馬勒を持っているか、視察しなければならない。
小村などに中隊を宿泊させる際、中尉は札を中隊の補給官に配り、のちに兵士を上級士官の指示と同時に、兵士を可能な限り満足させる方法で中隊を分けなければならない。この分け方は少尉が宿泊する高い家の前で、各兵士が宿泊する場所を示す札を待たなければならない。これによってどの軍旗の元に加われば良いか知ることができるためである。
中隊がその場所で1日以上休止する時は、中尉は家を訪ね、兵士が快適に過ごしているか確認し、兵士が家の主人に侮辱を働いていないか、1人でも兵士が欠けていないか、注意しなければならないし、また中隊長が立ち去った後に中尉は中隊長から与えられた命令に全ての面で対処する務め、死に至る火災に注意しなければならない。
街や駐屯地となっている場所に宿泊する予定がある時は、中尉はより公的に楽しめる質の高い休息のために全ての家を確認しなければならない。1日以上休止する場合はどんな場所でも中尉は宿泊した先の主人が訴える苦情の為に宿泊した兵士全ての名前と宿泊した場所を記録しなければならない。なぜなら主人と犯罪者の名前を記した名簿があれば、容易に罰することができるからである。行軍中は中尉は隊列の先頭を行き、兵士全員が精勤に勤めているか注意を払い、最悪の者を叱り、もしだらしない行いや他の者を動揺させる行いがあれば、近くの屋内で、他の者への示威のため、著しく厳しい罰を与えなければならない。
中尉は道路や経路、近道について気づきを得られる徒歩での行動に精通している方が良い。情報を得る為、または敵の先導兵を倒す為に幾度も野外に送り出されるからである。敵の貨物を襲う為に中隊を率いるよう命令する際は、中尉は他の者に最も優れた騎兵のうち相当の人数を与えなければならない。騎兵において重要なのは習熟と経験を積み、歩兵の士官のように毎年交代したりしない士官である。歩兵では士官がたびたび交代し、新たな帽子を被るため解隊(reformado)を行なっていたが、陛下の勅令によってその間隔を3カ月未満に削減させられた。しかし、前述の騎兵士官が長い間その地位にいたとしても、受ける栄誉や慈悲に対応する感謝の念とともに、当然の服従の義務による中隊長への敬意が忘れ去られてはならない。また、真に厳しい叱責に値するのは、将軍を支えるべき中隊長の重荷となりうる(拙い技術や経験のために思いあがった)中尉と少尉が中隊長の言動に逆らったり、ほとんどそれに加わったり高慢さである。しかし、それらの高慢は錯覚である。将軍の許可の下、悪い例の種が広がり、下位の者が彼らと手を組まないように彼らを解任する権限は中隊長の手にあり、彼らの特権は中隊長が保持しているからである。

第6章 中隊長(Capitan)について

軍におけるその地位と重要性により、指示や相談、他者との合意などがなくとも、多くの事態を解決し、多くの哨戒を熟慮しながら実行することが避けられない騎兵中隊長の地位は、卓越し、立派な栄誉を持つ兵士のみに与えられる。
騎兵中隊長は用心深く、慎み深く、落ち着いて飲酒し、服装は控えめでなくてはならない。また、良い馬や、ある場合に価値を生む土地について探索せねばならない。
中隊長は彼の兵士たちに良き例となるよう模範的に振る舞い、多くの書類を持ち、良く武装するよう務める。またそれ以上に、義務を正確に果たし、兵士を観察し、貢献させる為に規律を守らせ、悪党となったり、故郷へ脱走させることを許してはならない。軍司令官がこの問題にかける精励さのため、それが促進されている間は、少なくとも究極の義務として不服従を記録する中隊長が、将軍に対してその評判を傷つけることなるような隠蔽をしない限り、ついに不服従を取り除くことができなくなる状態まで達することはあり得ない。
同じく危険で、評価を落とし、容易に中隊長を陥れる可能性があるものとして知られているのが、その遊びを断つか、台を離れる方法をしらない彼を打ち負かし、屈辱を強いるのが賭博である。
また、貴族の胸の寛大さのため、強欲に踏み入ることも蓄財への飢えに陥ることもない、勇敢かつ貴族の生まれの全ての中隊長はその心の扉を財産の領域や貯蓄の望みに対して開くべきでない。これは卓越した兵士の服を着た敵対的な蛾と、名声に大きな汚点を残す行為への注意である。私は事実として断言できるが、強欲な暴政とそれが引き起こしたその地位に全く値しない事件と、それらの事件から短時間で彼ら自身の職と長期にわたる名声を失い、嘲笑の的となった幾らかの中隊長を知っている。いかなる疑いもなく、適した方法で統治する中隊長たちは、尊敬を集める否の打ち所のない人生が知られているため見本として彼らの士官と兵士に模倣されるが、もし中隊長がその人生を汚点と罪に売るなら、士官も兵士も中隊長を尊敬せず、彼に従わないという逆の事も起こりうるのは明白である。中隊長は上位者からの命令に対して、それがいかに危険で、または大きなものでも、あるいはその他のいかなるものでも不機嫌なところを見せるべきではない。意見を尋ねられた場合に、中隊長がその見解を述べる必要があるのは事実だが、その場合はそれらは実行しなければならないものであるから、その困難さに気づかれたり、勇気を失ったり、命令に反抗しないよう慎重に、注意して伝える事が中隊長には必要である。
あらゆる状況下で、常に馬に騎乗する事幾らかの人は評価する不名誉な習慣で、彼らは中隊の中で一緒に行くことを望む。50人か100人以上の兵士がいる大きな中隊ではこれを癒す術がないことについてしばしば不平が言われる。
だんだんと育つ敵意は評判を傷つけ、多くの苦労と危険と共に中隊長になったものが眠ったようになり、生命をより危険に晒す行為や、栄誉ある行いを全くしなくなり、栄誉ある男がいかなる時にも常に行う事柄に虫食い穴を残すだけとなる。このため、中隊長は自らの地位に満足したり、落ち着いたりしてはならず、美徳のある方法と手段を通して常に高い地位を渇望し、敵を不安にさせ、傷つけるその奉仕を凌駕することを試みることに心を砕き続けなければならない。この目的のため、しばしば自らの中隊や他の中隊のより経験のある兵士に相談し、あるいは(より誠実で栄誉ある、経験深い)1人か2人の兵士を相談役とする事が大きな利点を生む。
中隊長は兵士に指令を出す時に兵士を異なった名前で呼べるようにするため、兵士全ての名前を覚えるよう努めなければならない。中隊長が兵士の名前を知らないと、兵士の心に反感と憎悪を引き起こすからである。また、兵士は中隊長の行動に完全にのしかかっており、このため、中隊長はどのような状況でも窮地に陥ったように見えるため、動揺したり、何らかの兆候を見せたり、当惑したりしてはいけない。大胆な姿勢と勇敢な心を示し、混乱なく指令を与えなければならない。助言もないまま混乱したり、恐れで心を満たしている者には成功はないからである。
勇敢で大胆な兵士を知り、その兵士に報い、彼らに必要な助けを与えれば、多くの勝利を得る事ができるだろう。
それどころか、中隊から小心者や臆病者を追い出し、これらの利点や相違点が軍隊に大きな利益を与えるだろう。また中隊長は主に辺境での任務に備えてその中隊に土地や道路について話し合う幾らかの兵士を持つよう試みるべきである。常に信頼できるわけではない農民を使わずとも自らの中隊に案内を持てるからである。これらの案内役となる兵士は上手くやれば例外的な給与を受け取れるだろう。
中隊長が将軍とその士官の承認を受けるために中尉と少尉を兵士から選ぶ時は、感情を交える事なく各々の利点と奉仕のみを秤に掛けることで、兵士達を奉仕に向かわせるこれらの好餌で大いに勇気付け、また満足させる事ができる。
この章を終える前に、少しの間騎兵中隊長たちの間に見られる兵士への指令と指揮に関する事柄について述べたい。それらの鼻水を垂らしたいかなる経験も持たない中隊長たちが等しく持つ、誰に最初に従うかも学ばず他の中隊に指示を出す危険性も考慮せず他の中隊のその地位にある兵士を指揮しようとする厚かましさ、好ましくない事象が起きた時の責任は部隊を率いる士官にあり、その士官に経験が欠けているためならば、それは許されない事であるという事を自覚できない自惚れは罵倒と不名誉に値するように思われる。
ところで、私が思うに一つの行為から他の行為へと男に経験を積ませ、いかなる状況にも熟練させるという第一に優先される事柄について考えると、これを、その利益のため、また栄誉のために重要な兵士の専門性と軍事規律を完全に理解することに注意を払い、学ぶ者が極めて少ないに理由がないことではない。それどころか、現在は最初に兵士ではなく中隊長になることを望み、さらに悪いことに寵愛やおそらくその他の間接的な金などの手段でその地位についた後も、彼に助言することのできる経験のある兵士を気にかけず、不注意にも気づかず、不服従や不便に言い訳をする多くの若者を見出す事ができる。兵士が地位につくと、理性や判断力と同じくらいに身体の力を使う必要はないことは確かであり、彼が他の者に従っていた間に熟慮と共に蓄えられた豊富な経験を使う方法を知らなければならない。軍事という義務を果たすべき場所で正当な評価として名声を得て士官となるには、少しづつ、低い階級から多くの責任と注意が伴う高い階級へと一つずつ昇進していく事がより確実である。軍隊のほとんどの領域では、他の職業のように、失敗に対処することも誤った指示を送ることもできないのである。
兵士の指揮は、騎兵中隊の中で最も古参の中隊長が好まれるが、より古参の先任中隊長を優先させるのではなく、指揮に必要な考慮と良識を備え、中隊長の中で最も大権を持つ槍騎兵中隊の中隊長に委ねられている。これは戦時に5〜6年継続して働いている中隊長が、10年前に中隊長に任命されたが、短い期間務めたのみで改組され、その後再び昇進した他の者よりもより優れた技術と兵士の指揮能力を持つことから確かめられている。槍騎兵中隊長が不在時には、胸甲騎兵中隊長たちが、それらの胸甲騎兵中隊長がいない場合には火縄銃騎兵中隊長たちが同じ方法で指揮する。

*1:特に第6章